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同じもの

 ミカエル殿に研究報告をするため、執務室へとやって来たが、
目的の上司は、あいにく席を外していたため不在だった。

 暫く待とうと考え、壁一面を占める巨大な本棚に目をやる。
そこには、膨大な量の難しい古書や、学術書が並んでいた。

 自分などは、脳・記憶学のみが専門だが、ここには幅広い専門書が取り揃えられている。

 「おや?」
 その中に一冊、明らかに薄く 装丁の違う本に目が止まる。

 『小学生・理科教科書』
そう題字された裏面には『ミカエル』……と書かれた名前をマーカーで消し、『ノエル』、
と、書き直されている。

 「……ミカエル殿のお下がりの教科書を、引き続きノエル君が使っていたのか?」
幼い頃の2人が想像出来、思わず、顔がほころぶ。

 そっと本を開くと、『小学生・理科』……にしては、やや難解な文言が並んでいる。
 「やはり、名門校レベルじゃな!難しい」

 その中の一つ、鳥の写真が掲載されたページに思わず苦笑する!

 写真の横には、ミカエル殿の几帳面な文字で、鳥類に関する進化過程の推察や
鳥の骨格が、書き添えられている。
 それは舌を巻く程のモノで、とても小学生レベルの推察では無い!

 さらにその下には、ノエル君の伸びやかな文字で
『テラミミズク 雄・2歳くらい
 ぴよ太・写真は狩りの途中を撮影されたもの(お腹が空いてるのかな?)』
 ……と書き添えられている。

 「同じ兄弟で、メモ書きがこうも違うとはのぅ!」
 学術的推察をメモしたミカエル殿に対し、ノエル君は個体の年齢、状況、果ては
自分で名前まで付けてしまっている!

 「クズノハ?」
……と、後ろから声をかけられた!

 「ミ…ミカエル殿!」
勝手に教科書を覗いてしまった後ろめたさに、思わず本を取り落としそうになる!

 「ああ、それか?」
ミカエル殿は、怒る風でもなく、無表情に溜息をついた。

 「以前、私の指示に異論を唱えるようになったノエルに『嫌ならサイエンティストを辞めたまえ』……と言ったら『こんなモノは返す!』と、……叩きつけられたんだ!
 全く、私は最初から、お下がりではなく、新しい教科書を使うように勧めたのだが……
まさか、10年以上も経って八つ当たりされるとは!……はぁ」

 「望んで使ったのは、貴方のモノだから……ではありませんか?」
 「?」
 「幼いノエル君は貴方が学んだ、その同じモノで学びたかった!
ノエル君にとって、貴方は誇りであり、憧れであり、自慢の兄だったのです
 きっと、貴方が教科書の至る所になさったメモ書きや考察は、彼に
より深い知識を与えた事でしょう!」

 「………」
 「だから、ノエル君は何年経っても この教科書を残していたのです!
サイエンティストになれた『基礎』じゃから『辞めろ』……と言われた時に八つ当たり気味に返されたのじゃ!」

 「そんなものか?」
ミカエル殿は理解出来ない……といった表情で椅子に腰を下ろした。

 「そんなものです!研究報告の前に、お時間を!」

 そう言って、わしはノエル君の私室に赴くと、今は主の居ないその部屋の
本棚に、そっと教科書を返した。

 ― ― 棚の写真たてには、ミカエル殿の教科書を両手で抱えた
入学式のノエル君が誇らしげに微笑んでいる。― ―

 ― ―あの方と同じものを手にして……本当に嬉しそうに……― ―

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