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雨と大粒の涙と。(ミカエル編)

 

 ― ―『父の日』― ―

 そんな言葉が、教室の女子生徒の間から聞こえてくる。

 ― ―テラの超難関である名門高校― ―
そこに於いても、やはりそれなりのイベントなのだろう。

 (自分には関係ない……)
そう思いながら、私は教室を背にし足早に、研究室のある
月色の塔へと急ぐ。

 私が、名門とはいえ、普通の高校へ通う事を父は反対した。
『すでに、メインサイエンティスト以上の学力があるのだからレベルが低すぎる』……と。

 『高校通学』は、母の望みだった。
私が、年上の研究者に囲まれて学生時代を過ごすより、『同い年の学友を作って欲しい』と考えたからだ。

  

 ― ―「帰ったら、貴方が組んだカリキュラムを学ぶ!だから昼は高校に行かせて欲しい!」 ― ―
そう、私は父を説き伏せた。
気の合う、議論を交わせるような学友など、ここにはいないけれど……
母の望みを少しでも叶えられるなら、それでいい!

 ポツ、ポツ、

 6月のどんよりとした空から、一粒、また一粒と水滴が落下する。

 ― ―『会いたいわ、ミカエル』― ―
母に何度乞われても、私にはそれを叶える事は出来ないのだから。

 父は、私が母に会う事を快く思っていない!

 母とノエルが、私の研究の妨げになると考えていた。
離縁して、2人を月色の塔から出そう……とも!

 その口実を与える行動は出来なかった。

 病気の母や、将来、生物学を専攻したいというノエルのためにも
私は父の望む完璧な私であり続けた。

 それで、彼等が月色の塔に留まれるなら構わない!

 (呪われたシャークマン家の血は、私で終わりにしよう……)
漠然とそんな事を考える!
 家庭を顧みず、『ある少女の研究』に、翻弄され続けている呪われた家系……。

 私は、あの父のようにはならない!

 家庭も持たず、子孫も残さず、無論、『父』、と呼ばれる事もない!
忌まわしき『シャークマン』は、私で最後。

 『塔』は母の血を強く受けるノエルに継がせ、母の姓を名乗らせて……。 

                  ・

                  ・

                  ・

 

 前方に帰るべき月色の塔が見えてきた。
「家庭」……とは呼べないあの場所だ。

 母にもノエルにも……私は父と同じく冷徹な人間にみえるだろう。

 父が死んでも、私が泣く事はない!
それと同じように私が死んでも、きっと泣く者はいないだろう。

 雨が私の身体をうち、髪をつたってその粒が 滴り落ちる。

 ― ― いや、― ―

 「博士~~!」
 聞きなれた声で、ザクロが傘を抱えて駆けよって来る。

 「学校でお待ち頂ければ、迎えに上がりましたのに!!
体が冷えてしまいますよ?温まる生姜湯を、お作り致します!」

 「ふっ」

 ― ― ザクロなら、泣くのかもしれない。この雨のように、大粒の涙をポロポロと流して……― ―

 「ザクロ!生姜湯は口に合わない!カプチーノにしてくれ!」
 「はい?」

 「ほら、キミがこの間、母に淹れ方の特訓を受けてただろ?あのカプチーノだ」
 「は……はい!かしこまりました!」

 そうしてザクロは、嬉しそうに傘を差し出した。
 「奥方さまからです!」

 

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