« 久々お返事。 | トップページ | 親心。あとがき »

親心

 ― ―サイドテラ・子供達の教室― ―

 「ねぇ!父の日やろ~う?」

 そんな元気な声が、教師を務めるあっしの耳に聞こえてくる。
両親を知らない子供達だが、ゲッセマネの警備兵にでも聞いたのか、
どうやら『楽しいイベント』だと思っているようだ!

 「ふん!んなモンやる意味ねーだろ?『父』いねーじゃん?!」
と、突然トゲのある言葉が飛び込んで来た!

 教室を覗きに来たイザナギの言葉だった。

 ふと、思う。
 捨てられた事を覚えていない子供達よりも、
クズノハを親のように慕っていたイザナギに、心のケアが必要なのかもしれない。

 「イザナギ!そんな憎まれ口を叩いちゃダメでござんすよ?」
 「だって文字郎!ホントの事だ…ろ…ふぇックション!」

 暖かい季節なのに風邪を引いてしまっているようだ!
 

 気が緩んでる……と言わんばかりに目線を合わせると……

 「オ……俺は賢いから、季節に関わらず、風邪 引いちゃうんだよ!」
 鼻をすすりながら、よく分からない強がりを言う!

  「………
 ふう~、仕方ない。しばらく奧の空き部屋で寝てるでござんす!」

 (随分昔……イザナギがもっと幼かった頃……風邪を引いたこの子に
どこで手に入れたのか、クズノハがすりおろした林檎を食べさせてやっていたな)
 ……と思い出した。

                      ・

                      ・

                      ・

 ― ― 時空門防御システム・ゲッセマネ前― ―

 「林檎が少し欲しい?ああ! お安い御用だよ!」
明るい御仁は2つ返事で引き受けた!

 「今日の門番が貴女でよかった!フェリアさん!」
彼女は、しばらくすると、何を思ったか、ダンボールいっぱいの林檎を運んできた!

 「んにゃ!?こ…こんなに沢山?……かたじけないですにゃ~!」
少し……と言ったのにどういう感覚なのだろう?

                     ・

                     ・

 すりおろした林檎を手に、部屋へ戻るとイザナギが隅っこで布団にくるまっていた。

 適量を盛って、目の前にスプーンを差し出してやる。
 「イザナギ?はい!あ~~~ん!」
 「ん…んな恥ずかしい事出来るか!!俺はガキじゃないんだぞ?文字郎」
 「クズノハには、こうやって食べさせてもらってたでござんしょう?」
 「だから!アレはちっちゃい頃の話だろ?」
 ぷい、と、顔を背け食べる気配が無い!

 風邪の時には水分補給が重要だ。
左手指でイザナギの頬を両側から押して、口をこじ開ける!

 「はい、あ~~ん!」
 そう言ってスプーンを右手に微笑むと、
 「う゛え~~ん!何でそ゛んな゛にスパルタな『あ~~ん!』なんだよう゛?」
 渋々すり林檎を飲み込んだ。

 完食するが早いか
 「ったく、文字郎は余計なお世話!」
 ……と、ふてくされる。

 「こういう時は、ちゃんと、『ありがとう』…でござんしょう?」
 「だから頼んでもねぇの…に…」

 ニコっ!
 「あ・り・が・と・う!…は?」
 あっしは諭すように、優しく微笑む。
 「う゛えぇ~~ん!あ゛…あ゛りが…どう
 イザナギは、何故か恐怖に引きつった顔でお礼を述べた。
 もしかすると、あっしの後ろで「怒りマーク」のもじもじ君が威圧していたかも知れないが…!

イザナギにも、心を開いて『ありがとう』と、言える相手が早く見つかればいいのに……と思う。

 ― ―あのクズノハのように。― ―
 そんな自分は、クズノハがミカエル・シャークマンに魅かれたと言いだした時は、
随分反対したな……と苦笑する。

 ― ―『よりによってテラのボスに!』― ―
 ― ―『貴女を慕っているイザナギを置いていくおつもりか?』― ―

 だが、当のテラのボスが、これまでと違い、革新的な人物であった事、
なにより、近づき難かったクズノハの表情が、人間的に穏やかになった事で、あっしの考えは変わった。 

 (イザナギの心を溶いてくれるような相手が現れれば、あっしは全力で応援するのに…)
 無論、ミカエル・シャークマンと同等か、それ以上の器の持ち主でない限り、ノータッチだが!

 (これは、『親心』……というヤツだろうか?)

 部屋から出て、遥か下のサンクルスを眺める。
 雲の隙間から、ちらちらと美しい緑が臨める!

 内通者であるフェリアさんの仲介で、じきにあの島から来訪者がやって来る。

 1人は、ノエルさん。犬の姿ではあるが、ミカエル・シャークマンの弟。
 もう一人は、マリアさん。研究資料の少女。

 (マリア…というその少女は、イザナギと気が合うだろうか?)

 ― ―監獄樹に腰かけ、そんな風に考えながら、
あっしは、まだ見ぬ来訪者の事を ふと、……思った。― ―

 

|

« 久々お返事。 | トップページ | 親心。あとがき »

ミニ小説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 親心:

« 久々お返事。 | トップページ | 親心。あとがき »