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テラ’s運動会

  月色の塔…

 上層部の見晴らしの良い窓辺、清々(すがすが)しい秋の空を眺めていたザクロが、「ほぅ…」と懐かしげに息を吐いた。

 カツ、カツ…

 と、耳障りなヒールの音と共に凛とした声がザクロを現実に引き戻す!
 「ザクロ、何を ぼんやりしておるのじゃ?」
 「ク…クズノハ!?あなたには関係ありません!!私がせっかく、幼き博士の運動会の想ひ出に浸っていたと言うのに…!」

 ぴくっ!!
 「ミ…ミカエル殿の運動会の想い出っ!?」

 「ソレ、聞きたいでござんす…」
 「うわっ!?」
 今度は足音も立てずに近づいた文字郎の囁き声がザクロを驚かせた!

 「何じゃ!?文字郎……お主も、ミカエル殿の子供時代に興味があるのか?」

 クズノハの質問に、文字郎はサラリと答える。 「ええ!もちろん!交渉相手の弱みは、少しでも多く握りたい!」
 「…………」
 「…………」
 ピキーーン!
 一瞬にして、凍り付くザクロ&クズノハ!

 「な…何を言い出すのです!?このバカ猫!博士の人生において、生まれて、この方、弱みなどありません!!」
 
 ビシィっ!
 「ならばザクロ!ミカエル殿の運動会の想い出を聞かせてくれても、いいじゃろう?」
 クズノハは期待の眼差しで先を促した!
 「ふ…ふん!いいでしょう!ついて来なさい!」
 言うとザクロは二人を自室に案内した。

 --ザクロの部屋--
 年季の入った部屋の一角には、小綺麗に整頓された資料が隙間無く並んでいた。
 その中の「運動会」とラベルが貼られたディスクを取り出すと、部屋の大型モニターには、楽しげな子供達の姿と、お決まりのフォークダンスのメロディーが流れ始めた。
 「おおっ!?幼きミカエル殿が踊っておられる!何と可愛らしい……」 そこには、そつなく女子生徒をリードする少年時代の博士が映っている。
 「んっ!?」
 ……と、突然画面の背景が、凝ったCG合成に切り替わる!
 「ああ!これは私が博士に似合う背景に差し替えたんです」

 楽しそうな運動場が、何故か豪華な宮殿の舞踏場になっている。
 映し出された、煌めくシャンデリアの光のせいか、画面下には小さく、[部屋を明るくしてご覧下さい]……と、注意テロップが出ている。
 BGMも、「マイムマイム」からいつの間にかテラ交響楽団が奏でるクラシックの「ジュピター」だ!

 「……」
 「………」

 「あっ!見て下さい!」
 ザクロが楽しげな声を上げる!

 今度はパン食い競争の様子が映し出されたが、そのパンが……何やら……おかしい!
 「っ!?」
 よく見ると、博士や生徒達が食べているのは、あんぱんではなく、アップルパイやクイニーアマンなのだ!!
 どうやらザクロが実行委員会に圧力をかけて、博士の口に合うモノをセレクトしたらしい!

 「あの時は怒られましたねぇ……アップルパイに水分を奪われるし、喉がカラカラになって、食べにくいって!」
 「当たり前じゃ!」
 呆れ顔のクズノハ。
 「やはりチーズフォカッチャにすれば良かった!」
 「そーいう問題じゃないでござんす!」
 ツッコむ文字郎!

 「博士に、騎馬戦では私の背にお乗り下さいと申し出た時は、目すら合わせて下さらなかった……!」
 「ミ……ミカエル殿…お察しします」

 続いて大型モニターに映し出されたのは、借り物競争の様子だ。
 「これ、博士の大活躍だったんですよ~!」
 昔を思い出したのか、何だか遠い目をするザクロ。
 「何じゃ?1位だったのか?」
 「その逆です!最下位でした!……ですが……」
 懐かしげにモニターを見る。

 「幼児」と書かれた札を引き、困惑している博士の元に観覧に来ていたノエルが嬉しそうに駆け寄っている!
 仕方なくノエルの手を引き、弟が転ばないように、ゆっくりとコースを回る博士。
 その様子を奥方が愛しげに見つめる姿が映し出された。
 「な…何と微笑ましひ……フフ」
 ちー~ん!
 ザクロは涙声で呟くと思いっ切り鼻をかんだ!
 幼い博士は、どんどん他の生徒に追い越されたがノエルを気遣い、ゆっくりとゴールする頃には、会場中がスタンディングオーベーションで暖かい拍手に包まれていた!
 「まるで、伝説のランナー裸足のアベベのようではありませんか!」
 感極まったザクロが立ち上がり、「ブラボー」……と、映像の博士に惜しみない拍手を送る!
 「ザクロの例えは、古すぎて よく分からぬが、わしも胸を打たれた!」
 パチ……パチパチパチ!
 クズノハもザクロに続き、目を輝かせて拍手する!

 スー…スー
 その拍手に、明らかな寝息が加わる。
 「ん?文字ろ…?」
 「ね……寝てるしっ!?」
 「な…何と無礼な!?あの感動のドキュメンタリーを見て、居眠りとは!!全く猫に小判とは、この事です!」
 「そうじゃ!そうじゃ!!これでは馬の耳に念仏じゃ」

 クズノハも同意する。 「いや、馬の耳に……は、例えが悪いでしょう?」
 「それは、どーでもいいじゃろう?」
 「良くありません!!」

 そんな二人を よそにいつの間にか起きた文字郎が「んにゃ~…」と、背伸びをする。

 涼しい風が吹く、ある秋の日の1コマなのでした……。

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